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対話391 藤井 直敬 『ソーシャルブレインズ入門――って何だろう』

2011.09.28.00:07



読書時間:1時間10分
個人的読みやすさ:B


 ただ、これまでの僕たちの研究で、何となく分かってきたのは、ネットワーク要素間の関係というものは、脳内ネットワーク内の要素である各脳領野間に観察される、ある瞬間の関係構造そのものを指すというよりも、むしろ、その構造が時間の経過に合わせて変化するところに意味があるのではないかということです。
 なぜなら、関係構造が変わるということは、行動のルールが変わるということだからです。当然ながらルールの変更はわたしたちの行動に大きく影響を及ぼします。そのような関係構造の変化に対応して行動を選択する適応行動のしくみを知ることが、ソーシャルブレインズ研究ですから、おそらくこの方向性は間違っていないと思います。
(p.186)


 最近「集団のダイナミクス」が熱いと常々感じていたが、脳内の研究においてもそれは同様のようだ。筆者はここにはこのような機能があるというような従来のモジュール仮説的な立場には完全には立たず、すなわちそれは従来のような研究のやり方ではそれを計ることはできないということを必然的に意味してくる。「ではその常に変動する関係構造の変化をどう捉えていくか?」という大きな難問に対し筆者が脳機能学者の立場からECoG電極という具体的な一つの解を示しているのも好感が持てるし(この手のことを叫んでいる人は従来のやりかたを批判するだけで具体的な解決策を明示できないというケースが多々ある)、こういう流れこそがこれからの研究の中で主流とまでは言わずとも一つの大きな流れのうちの一つになってくるのかなと思わされる。

 僕自身、コミュニティ心理学で扱われるような(ところでコミュニティ心理学の動きはどちらかというと鎮静化、というかやや縮小化に向かっているような雰囲気を感じるのだけど実際のところはどうなのだろう?)動的な場における個人間の相互作用には非常に興味を持っている。今のところそのアプローチの方法についての知識が僕個人には乏しいというのが実情ではあるが、将来そちらの方面にも研究でタッチできたらいいなと願う。

 また、認知知覚機能の時間的前後関係を揺さぶるような事例も、いくつか心理物理実験で示されています。たとえば、右手、左手、の順番に誰かに触られたとして、普通、その順番を間違えることはありませんよね。ところが、自分の腕を交差させて、そのときに同じようなことをされると、触られた順番を逆に感じることがあると、順天堂大学の北澤茂氏が報告しています。
(p.23-24)

 そこで重要な考え方が、モジュール仮説という考えです。これは、ブロードマンによって定義された脳領野を一つの機能単位、つまり一つの機能モジュールとしてとらえ、そのモジュールの持つ働きを個別に理解するアイディアです。
(p.29)

 一つ断っておきますが、社会的ゾンビは、ある種の社会的機能障害を持つ特定の疾患患者さんを指しているわけではありません。たとえば自閉症やアスペルガー症候群とされる人たちは、発達機能障害を持っていますが、そのあらわれ方も人によってさまざまで、社会的ゾンビのように「空気」だけが読めずに、それ以外はまったく健常というのとは異なります。
(p.46)

 いずれにしても、わたしたちはじつは、自分たちで考えている以上に行動の選択しは少ない環境に生きているということを覚えていてください。そして、そのことには、おそらく意味があるのです。
(p.51)

 創造性については、多くの人々が議論しています。しかし、その他のあらゆる脳機能と同じく、創造性についても社会的なコミュニケーションの重要性が強調されることはあまりありません。
(p.54)

 とするならば、もしかしたら顔の認知機能は、さらに細分化され、目と顔の二つに分かれているのかもしれません。じつは、それは本当のようです。実際に人の目の動きだけが分からないという患者さんが存在するのです。この患者さんは、脳の側頭葉の一部が脳梗塞などで選択的に破壊され、それ以降、他人の目の動きが分からなくなってしまったのです。
(p.66)

 そのような状態を「病識がない」と言いますが、高次脳機能障害ではこの病識のなさが特徴と言っても」いいかもしれません。
(p.70)

つまり、扁桃体損傷患者の恐怖認知異常は、これまで言われてきたような単純な恐怖表現が理解できないという認知機能の異常ではなく、むしろ他者の目に対する注意の欠如のような理由で説明できるかもしれません。なぜなら、扁桃体損傷患者に、明示的に相手の目を見て恐怖表現の有無を判断してもらうようにお願いしたところ、その判断成績は大きく向上し、健常者の成績と変わらなくなったからです。
(p.78)

 いずれにせよ、リゾラッティらのミラーニューロンに関する定性的な記述は、同業の科学者たちからの突込みどころが満載の結果でした。
(p.87)

 誤解されがちなので、繰り返しますが、僕はサルで見つかったミラーニューロンの存在を疑っているわけではありませんから、まずそこはご理解ください。
(p.94)

 これまで繰り返してきた通り、僕はモジュール仮説という、脳の特定の部位に特定の機能を当てはめる考えに懐疑的です。むしろ、高次機能のほとんどが、複数の脳領域がつながるネットワークの中で、柔軟かつ動的に実現されているという考え方をとっています。
(p.95)

それでは、そのような自他境界が曖昧な脳が、自己と他者を区別するために利用しているもっとも重要な要素は何でしょうか。それは、身体感覚と視覚刺激のタイミングがマッチしているかどうかという同期情報です。
(p.102)

 ちなみに、ヒトとチンパンジーの脳の重さは、ヒトが4倍近いのですが、脳への血液量は2倍にしかなっていません。ヒトの脳内エネルギー環境はチンパンジーのそれとくらべてはるかに厳しいのです。
(p.129)

 この実験の中止に際して看守役から、実験を継続するようにとの強い抗議があったことは、看守役が陥っていた心境がきわめて異常な状態であったことを示しています。
(p.154)

 ECoG電極で記録される信号は皮質脳波と呼ばれています。これは、単一神経細胞活動を記録してきた電気生理学者にはあまり評判のよくない方法です。なぜなら、神経細胞活動こそ脳機能の基本であると考える人たちからみると、局所電位はその信号の源が明らかでないので、気持ちが悪いのです。
(p.175)

 それではここでもう一度、ECoG電極の特徴を」まとめてみましょう。
1 長期間安定して神経活動が記録できる
2 脳に電極をささないので、比較的脳へのダメージが少ない
3 脳の広範囲から同時に記録できる
4 非常にたくさんの情報が記録信号に含まれている
5 ヒトにも使われている技術である
(p.178)

(前略)ECoGを使うことで信号の安定性を確保したということは、もうコーヒーメーカーは消えないということを意味します。
(p.181)

 ただ、これまでの僕たちの研究で、何となく分かってきたのは、ネットワーク要素間の関係というものは、脳内ネットワーク内の要素である各脳領野間に観察される、ある瞬間の関係構造そのものを指すというよりも、むしろ、その構造が時間の経過に合わせて変化するところに意味があるのではないかということです。
 なぜなら、関係構造が変わるということは、行動のルールが変わるということだからです。当然ながらルールの変更はわたしたちの行動に大きく影響を及ぼします。そのような関係構造の変化に対応して行動を選択する適応行動のしくみを知ることが、ソーシャルブレインズ研究ですから、おそらくこの方向性は間違っていないと思います。
(p.186)

 そんな様子を見るにつけ、僕は人の喜びや幸せは、個人の中にあるのではなく、むしろ他者との関係性の中にあるのではないかと思うのです。
(p.198)

もし、胎児としてお母さんの体内にいるときに受けていた無条件の存在肯定を生存の前提条件として常に期待しているのなら、乳児期以降の他者とのコミュニケーションにおいてもその欲求が引き継がれていくことは、十分に考えられます。
(p.206)

もし、そんなリスクを持った他者が、みなさんにリスペクトを示してくれたとしたらどうでしょうか。おそらく、二人の間に存在する社会的な緊張感は低下し、その人に対して割かなければならない認知コストは大きく減るのではないかと思います。これは、脳にとっては望ましい状況です。
(p.210)

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2011.10.02.08:45

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2011.10.02.08:47

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2011.11.19.16:44

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